1 県の進める新型コロナウイルス感染症対策の取組について
(1)積極的疫学調査で得られたデータの集積・分析とこれらを用いた施策判断に対するここまでの課題認識について
質問の第1は、県の進める新型コロナウイルス感染症対策の取組について3点伺います。
1点目は、積極的疫学調査で得られたデータの集積・分析と、これらを用いた施策判断に対するここまでの課題認識について伺います。
県ではこれまで、新型コロナウイルス感染症拡大防止対策として、3度にわたる営業自粛要請をして来られました。
初めの要請は、まさに緊急事態であり、対象業種や、時間の設定などについても、「ほとんどが手探りだった」という実情に対して、県民の皆さんも一定の理解を示していただけるものと考えますが、2度目、3度目の要請については、当然、様々なデータやノウハウも蓄積されていたはずであり、これらをいかに施策判断へ活かすことができたのか、振り返って検証する必要があります。
日本公衆衛生学会が掲載している「保健師のための積極的疫学調査ガイド」には、PCR検査の陽性者に対する、「保健師の聞き取り調査」に関するガイドラインが示されています。
そこには、聞き取りの項目として、「接触者」や「日にち」、「場所」などの情報は当然のことながら、特に飲食店を利用した場合には、「時間帯」、「同行者」、「座席表」、「消毒やアクリル板の設置状況」など、その内容が大変細かい部分にまで及ぶこと、そのため、1回の聞き取りに 30分以上を要することなどが書かれています。
まさに、現場の保健師の方々の大変な努力により、私たちは、重要な手掛かりとなる貴重なデータを、一つ一つ手に入れることができているのであります。
しかし、これまで、「陽性率」や 「感染経路不明割合」などの基本的なデータについては公表されているものの、肝心な集中対策の実施根拠となるべき、こうした詳細なデータについては、現場の努力とは裏腹に、ほとんど示されることがありませんでした。
ガイドラインには「詳細なデータ収集を行う」旨が定められているわけですから、県が主導的役割を果たしさえすれば、現場での「聞き取り項目の統一」や、「各保健所設置市からのデータ収集のシステム化」、「分析体制の構築」など、強力なデータ集約体制を整えることはできたはずですし、その時間的猶予も十分にあったはずです。
県では、平成25年12月に、「広島県新型インフルエンザ等対策行動計画」を定め、その中で、県と市町等との「情報の収集・共有」について、取り決めをしていますが、この計画自体が機能しなかったことになります。
休業要請等の発令は知事に権限があり、その際、状況の分析に基づく国との厳しい折衝も予測されるため、県内各市町の最新の情報が知事の元へ迅速に集まる仕組みは不可欠であり、こうした体制がしっかりと構築されて来たのか、また現状はどうなのか、大変心配をしております。
そこで、コロナ発生から1年が経過する今、振り返って、積極的疫学調査から得られるデータに関して、「聞き取り項目やフォーマットの統一化」、また「各保健所設置市からのデータ収集システムの構築」や「タイムラインの設定」など、県民の命に繋がる情報の監理をどのように行ってきたのか、その中での課題や問題点はなかったのか、お伺いいたします。
また、今後の対応についても、しっかりと検討すべきと考えますが、ご所見をお伺いいたします。
【答】健康福祉局長
積極的疫学調査で得られた詳細情報につきましては,県及び3つの保健所設置市がそれぞれ管理しておりますが,県が情報を集約するに当たり,法的根拠がなかったことから,それらを用いた分析をすることができず,課題となっておりました。
こうした中でも,3つの保健所設置市の協力を得て,流行の初期から昨年6月までの感染者及び接触者1,443名について,積極的疫学調査で得られた情報を広島大学公衆衛生学教室の協力のもとで分析したところ,有症状者の陽性率は,無症状者に比べて20倍以上高く,また,マスク未着用者の陽性率は,着用者と比べて約3倍程度高いとの結果が得られたことから,症状を自覚したら外出や通勤を控え,すぐに受診することや,普段からマスクの着用を徹底すること等,データに基づいて,県民の皆様へ感染防止策の徹底を促してまいりました。
この経験から,有効な対策を講じるためには,積極的疫学調査で得られる情報を集約,分析することが重要であると改めて認識し,昨年9月に情報分析センターを設置するとともに,昨年10月に保健所設置市と情報共有を可能にする協定を締結し,課題であった詳細情報を一元的に収集・分析できる体制を構築したところでございます。
また,積極的疫学調査を規定している感染症法が,本年2月に改正,施行され,国に対して提案し続けていた,県と保健所設置市相互の情報連携が規定されたことから,法的安定性も確保されたところでございます。
さらに,昨年10月には,県民の皆様に感染状況や医療提供体制の現状等について,正しく理解していただけるよう,県ホームページをリニューアルし,3つの保健所設置市を含む県全体の情報を集約の上,現在の感染ステージや,療養者数,新規報告数,検査陽性率等の指標のほか,コールセンターへの相談件数など最新のデータをグラフとともに分かりやすく掲載することとしたところでございます。
また,感染者の発生状況を年齢別,感染経路別,地域別で比較を行ったり,感染経路不明者の割合や陽性率などの指標の推移,あるいは他県における感染状況と比較分析することで,県の対処方針における施策にも生かしているところでございます。
一方,こうした分析は, 現在,国の様式を全県共通で使用した積極的疫学調査から得られる情報をもとに行っておりますが,感染者及び接触者から行動履歴に関して聞き取った際に,得られる情報にばらつきが見られることから,収集する情報の均一化を図るため,今後は聞き取り項目を統一してまいりたいと考えております。
今後は,モニタリングポイントとして見直しを行ったPCRセンターの陽性率を含め,これまで集積した様々なデータをしっかりと分析し,専門家のご意見も踏まえて,次の感染拡大の兆候をいち早く捉え,再拡大の発生を防止するとともに宿泊療養施設の確保も遅滞なく行えるよう適宜適切な対策を講じてまいります。
(2)飲食店への営業時間短縮要請の根拠と今後に向けた方針について
2点目は、「飲食店の営業時間短縮要請」の根拠と、今後に向けた方針について伺います。
昨年末から始まった、「広島市内の一部を対象とする酒類を提供する飲食店の自粛要請」については、私たち議会に対しても、専決処分の同意を求めるべく説明がありましたが、我が会派からは、「なぜ対象が広島市の一部に限定されるのか」、「短縮時間の根拠はどこにあるのか」といった疑問の声も上がり、これに対しては、「新規感染者数」と「感染経路不明者」の推移データが示され、「緊急事態である。何としても抑え込みたい。」との説明に終始されました。
先ほども申し上げました通り、本来は、感染者が飲食店を利用していた場合には、「時間帯」や、「人数」、「配席」や「飲食の態度」、「感染防止策の有無」といった詳細な状況まで聞き取りが行われているはずであり、その収集・分析体制が整っていたのであれば、エリアの設定や、対象となる時間等についても細やかな配慮ができ、飲食業界へ与えるダメージも最小限に抑えられたのではないかと考えます。
飲食店の経営者からは、「しっかりと感染対策をした店内で、マナーよく食事をしてもらう方が、家で食べるより感染リスクは低いはずだ!」と言う声もお聞きしましたが、そういった 素朴な思いに対し、私は何も答えることができませんでした。
更に、対策の効果として、「飲食店の利用が原因とされる感染割合の推移」が示され、広島市内においては、21%から12%に減少したことから、「一定の効果があった」、との説明を受けましたが、その減少率を計算すると、確かに4割減少しているものの、一方で、自粛要請を行わなかった他の市町においては、実に約6割も減少しており、虚心坦懐にデータを見る限り、多額の費用を投入しただけの効果があったのか、疑問が残ります。
「結果として減ったから良かった!」、で終わらせてしまうのでは、まさに思考停止と言わざるを得ません。
昨年12月23日、分科会の尾身会長は、会見で、「飲食店が感染の急所」と繰り返し発言され、その根拠を聞かれると、「直接的なエビデンスはないが、多くが飲食店で感染したと見ている」と答えられ、私は困惑しました。
飲食の場が3密の代表的なシチュエーションとなることは事実ですが、それは何の対策もしなった場合です。
「こうした方針を鵜呑みにした」、という説明だけでは、県内で飲食店を営む方々の気持ちには、決して寄り添うことはできないのではないでしょうか。
そこで、年末から始まった「広島市内の一部を対象とする飲食店の営業時間短縮要請」について、何を根拠に対象を飲食店としたのか、また、その範囲や要請時間について、どのようなデータを収集し、どのような分析のもとで決定されたのか、これらを明確に示すことは、ご協力をいただいた飲食店の方々への責務と考えますが、ご見解をお伺いいたします。
また、今後再び感染が拡大した際の営業自粛要請に向けては、どのような準備を進め、どのような方針で取り組んでいかれるのかお伺いいたします。
【答】知事
昨年11月以降,北海道や東京都,大阪府などの大都市圏で,急速な感染拡大が見られ,これらの地域では,それまでより強い対策を求める国の分科会からの提言を踏まえて,酒類を提供する飲食店への営業時間短縮,不要不急の外出自粛などの,要請が行われておりました。
こうした中,広島市においては,11月の推定感染経路の傾向では,判明107例のうち,「飲食」に関連する感染事例が,38例,45パーセントと高く,また,12月初旬には直近1週間の人口10万人当たりの新規報告数が,12月1日からの10日間で5.8人から23.2人とステージⅣの水準に近づくまで急激に上昇し,更なる感染拡大の兆候が見られたことから,12月12日以降の集中対策では,社会経済活動への影響を最小限に抑えることを目的に,広島市中心部の酒類を提供する飲食店への営業時間短縮などの要請を行ったものでございます。
その対象業種やエリアにつきましては,広島市の新規報告数が県全体の7割以上であったことや,広島市の新規報告数の4割以上が飲食との関連であったことから,広島市内の飲食店が集中しているエリアでの対策が必要であると考え,あわせて,狭いエリアに限定すると,エリア外の店舗に逃避し,かえって感染リスクの拡大につながることから,いわゆるデルタ地帯を中心に,対象としたものであり,これはより安全サイドに立って,設定したところでございます。
また,営業時間につきましては,他県が先行して行っておりました午後10時までの営業時間短縮の要請では,感染の高止まりが続いていたことを踏まえ,早く,強く,短くとの考え方のもと本県における営業時間短縮の要請を午後8時までとしたところであり,また,国の分科会においても対策の更なる強化を図る観点から,午後8時への前倒しについて提言されていたところでございます。
今後の方針といたしましては,外出自粛や時短要請などの措置は,県民や事業者の皆様に多大な負担を強いることとなるため,このような強い措置を取ることがないように,PCRセンターや医療機関等において,感染者を早期発見すること,改正された感染症法に基づき,保健所設置市と情報共有を行い,積極的疫学調査を徹底すること,クラスターが発生した場合には,対応する保健所の支援や施設への介入により,早期に収束させること,「警戒基準値」等のモニタリングを強化し,必要な場合,PCR検査の集中実施を行うことなどにより,感染の連鎖を遮断し,感染の拡大を抑え込んでまいりたいと考えております。
(3)家庭内感染への対応について
3点目は、家庭内感染への対応について伺います。
感染の「急所」はどこか、先入観なく見れば、私は、飲食店ではなく、「家庭」であると考えます。
厚生労働省は、感染の疑いがある者と同居する場合の注意点として、「小まめにうがいや手洗いをすること」や、「一緒に寝る場合には頭と足を交互にすること」などを挙げていますが、私から見ると、「ほとんど諦めている」、というのが実態ではないかと感じます。
確かに、家庭内での感染防止は難しいことですが、過去、ペストの流行時において、「ウイスキーを浸した布でテーブルを拭く習慣のあったポーランドでは感染がほとんど起きなかった」との報告は有名で、本当の急所を目がけて対策を打つ気にさえなれば、行政としても、例えば、「家庭向けの食卓用消毒液の配布」や、「紙コップや割り箸の推奨」、「これらを購入する際の補助」など、何かしらの対策は打てるはずだと考えます。
「アベノマスク」と言われた、全国民に直接マスクを支給する国の事業は、色々と批判もありましたが、直接個人へ働きかけ、啓発を行うという意味では、私は、成果のあった事業だったと思っています。
そこで、家庭内での感染状況の認識と、今後県として取り得る対策について、是非具体的な検討を行っていただきたいと考えますが、ご所見をお伺いいたします。
【答】健康福祉局長
昨年の12月15日からの約1か月間について感染経路を分析しましたところ,集中対策を行ったことにより飲食の場を原因とする感染が減る一方,家庭内での感染が全体の約4割を占め,最も多く,各家庭における感染対策の普及啓発は大変重要であると認識しております。
各家庭における感染対策といたしましては,まずは,外出先での感染を防ぎ,ウイルスを家庭に持ち込ませないため,感染リスクが高まる「5つの場面」に共通して,マスクを外すシーンで感染しやすいことを,具体的な事例に基づいて注意喚起したほか,県の対処方針においても,家庭内における感染防止の実践例として,こまめな換気と時間の目安,帰宅時の手洗いやうがいを心がけること,食器や箸などの共用を避けること,掃除や消毒方法のポイントなどを,生活の場面ごとに,具体的に分かりやすくお示ししてまいりました。
さらに,「風邪かな」と感じたらすぐに,かかりつけ医や積極ガードダイヤルに電話して,早期受診につながるよう,県ホームページやSNSなども活用した周知だけでなく,県内全域を対象とした新聞折り込みチラシのほか,小学生や園児等にマグネットシートを配布するなど,積極的に広報したところでございます。
引き続き,県民の皆様に対し,感染リスクが高まる行動や場面を示しながら,一人ひとりが有効な対策を実践できるよう,周知啓発を徹底してまいります。